金子博人展 アートで解き明かす日本文化の源流 「万葉集の巻」

2022年6月6日(月)ー6月11日(土)

「アートで解き明かす日本文化の源流」シリーズの4回目。今回は万葉集に挑戦します。
古墳時代から、飛鳥、白鴎、天平時代という400年にわたる日本文化の黎明期、和歌を手段に大胆で率直な男女間のやり取りがなされていました。
夜這いから始まり、結婚しても男女が同居することはなく、通わなくなれば自然解消という、ごく自然な営みがなされていましたが、相手に対する情熱は現代人以上でした。
さて、額田王(ぬかたのおおきみ)は、天智、天武の二代の天皇に愛され、天武天皇との間では十市皇女(とおちのひめみこ)をもうけています。この歌は、天智天皇の後宮の時のもので、恋い慕ってくれる大海人皇子(おおあまのおうじ)(のちの天武天皇)に送ったものですが、皇子の返しの歌(※1)は、実に美しいものです。(金子博人)

  

会場風景









秋の田の穂の上に霧らふ朝霞何処辺の方にわが恋ひ止まむ   (第二巻・八八)  磐姫皇后(いはのひめのおほきさき)





















①嗚呼見の浦に 船乗りすらむ 𡢳嬬(をとめ)らが珠裳の裾に潮満つらむ  (第一巻・四〇) 柿本朝臣人麿

②あかねさす 紫野行き標野行き 野守は見ずや 君が袖振る  (第一巻・二十) 額田王
➡(反歌)紫草の にほへる妹を 憎くあらば 人妻ゆゑに 我恋ひめやも  (第一巻・二十一)大海人皇子 ※1

③籠もよ み籠持ち 掘串もよ み掘串持ち この丘に 菜摘ます児 家聞かな 名告らさね
そらみつ 大和の国は おしなべて われこそ居れ しきなべて われこそ座せ われこそは 告らめ 家をも名をも  (第一巻・一)  雄略天皇

























④風吹きて、海は荒るとも、明日と言はば、久しくあるべし、君がまにまに (第7巻 一三〇九)柿本人麻呂


⑤梶の音 そほのかにすなる 海人娘子 沖つ藻刈りに 舟出すらしも (第7巻 一 一五二) 作者不詳


⑥海神の 手に巻き持てる玉ゆゑに 磯の浦廻に 潜きするかも (第7巻 一三〇一) 柿本人麻呂

⑦春の日の 霞める時に 住吉の 岸に出で居て 釣舟の とをらふ見れば いにしへの ことぞ思ほゆる 水江の 浦島の子が 鰹釣り 鯛釣りほこり 七日まで 家にも来ずて 海境を 過ぎて漕ぎ行くに 海神の 神の娘子に たまさかに い漕ぎ向ひ 相とぶらひ 言成りしかば かき結び 常世に至り 海神の 神の宮の 内のへの 妙なる殿に たづさはり ふたり入り居て 老いもせず 死にもせずして 長き世に ありけるものを 世間の 愚か人の 我妹子に 告りて語らく しましくは 家に帰りて 父母に 事も告らひ 明日のごと 我れは来なむと 言ひければ 妹が言へらく 常世辺に また帰り来て 今のごと 逢はむとならば この櫛笥 開くなゆめと そこらくに 堅めし言を 住吉に 帰り来りて 家見れど 家も見かねて 里見れど 里も見かねて あやしみと そこに思はく 家ゆ出でて 三年の間に 垣もなく 家失せめやと この箱を 開きて見てば もとのごと 家はあらむと 玉櫛笥 少し開くに 白雲の 箱より出でて 常世辺に たなびきぬれば 立ち走り 叫び袖振り こいまろび 足ずりしつつ たちまちに 心消失せぬ 若くありし 肌も皺みぬ 黒くありし 髪も白けぬ ゆなゆなは 息さへ絶えて 後つひに 命死にける 水江の 浦島の子が 家ところ見ゆ  (第九巻・一七四〇)高橋虫麻呂

➡(反歌) 常世辺に 住むべきものを 剣大刀 汝が心から 鈍やこの君 (第九巻・一七四一)高橋虫麻呂


⑧竹敷の 玉藻なびかし 榜ぎ出なむ 君が御舟を いつとか待たむ (巻十五巻・三七〇五)伝不詳


⑨安積山 影さへ見ゆる 山の井の 浅き心を 我が思はなくに (巻十六・三八〇七) 陸奥国 前の采女某(さきのうねめ)

























⑩伊豆の海に 立つ白波の ありつつも 継ぎなむものを 乱れしめめや  (第十四巻・三三六〇) 作者不詳


⑪鷲の住む 筑波の山の 裳羽服津の その津の上に 率ひて 未通女壮士の 行きつどひ かがふかがひに 人妻に 我も交はらむ 我が妻に 人も言問へ この山を 領く神の 昔より 禁めぬわざぞ 今日のみは めぐしもな見そ 事も咎むな (第九巻・一七五九) 高橋虫麻呂


➡(反歌)男神(ひこがみ)に 雲立ち上り しぐれ降り 濡れ通るとも 我れ帰らめや (第九巻・一七六〇) 高橋虫麻呂


⑫筑波嶺の 嶺ろに霞居(かすみゐ) 過ぎかてに 息づく君を 率寝て遣らさね(第十四巻・三三八八) 作者不詳


⑬勝鹿(かつしか)の 真間の井見れば 立ち平し 水汲ましけむ 手児奈し 思ほゆ (第九巻・一八〇八)  高橋虫麻呂


⑭君が行く 道の長手(ながて)を 繰り畳(たた)ね 焼き滅ぼさむ 天の火もがも(第十五巻・三七二四)  狭野茅上娘子(さののちがみの おとめ)

























⑯草枕 旅行く背なが 丸寝せば 家なる我れは 紐解かず寝む  (第十二巻・四四一六) 椋椅部刀自売(くらはしべのとじめ)

⑰厩なる 縄断つ駒の 後るがへ 妹が言ひしを 置きて悲しも  (第二十巻・ 四四二九) 作者不詳

⑱ま愛しみ さ寝に我は行く 鎌倉の 水無瀬川に 潮満つなむか(第十四巻・三三六六)


⑲足柄の 箱根の山に 粟蒔きて、実とは成れるを、粟無くもあやし(第十四巻・三三六四) 作者不詳

⑳さ寝らくは 玉の緒ばかり 恋ふらくは 藤の高値の 鳴沢のごと(第十四巻・三三五八)作者不詳


㉑伊豆の海に 立つ白波の ありつつも 継ぎなむものを 乱れしめめや(第十四巻 ・三三六〇) 作者不詳













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