《ギャルリー志門35周年記念企画展・第2弾》 海老塚耕一展 〈水・やわらぎの家〉
2022年9月12日(月)ー9月24日(土)日休
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《水・やわらぎの家》の実践
今回、木と鉄とガラスと水の配置に感じられる海老塚のエイジェントのはたらきは、特に水と木を「素材」以上の存在と見せることのように思う。
床に拡がり、奥の方で垂直に立つ数センチの厚みの板が、圧倒的な存在感を示す。それらの表面をさざ波のように薄く彫り込んだ表現は、自然を「素材」と見るよりも規範としてきた日本人の伝統を感じさせる。鉈彫のように木の命を表面に引き出しているのだ。そこに立て掛けるように置かれた、コンクリート打設用のワイヤーメッシュが、はかない規則性を見せ、板の彫り跡と対照的に文明の脆弱さを感じさせる。手前でワイヤーメッシュを留めるクロームのターンバックルとUボルトのレディメイド性と、奥にあるオリーブの細い枝の自然性の対比も同様だ。対比の妙は、屋根型のワイヤーメッシュの下にある水を張った小さな木の椀と周りの円筒の鉄柱や四角のガラス板にもある。鉄柱やガラスの際立った抽象形は、モダニズムの凡庸さへの皮肉のように感じる。
イリイチが「つかみどころがない」といった水を、海老塚は「やわらぎ」と表現した。水が境界を決定しないあいまいさに、やさしさの感情を見ているのだ。観念と物質をつないで揺れ動くありかたを、海老塚は、おそらく東野芳明と水面を漂いながら会得しただろう。揺らぎが血肉化された身体にバランスをとるように、エイジェントは作品化に際して、固定する方向ではたらいている。建築科出身の出自も、それに関わるだろうか。
水で満たされた小さな椀によって、配置された全ての素材は、茶室と庭という仮設の光景に変わる。茶室は、武器を置いて語らうために戦国時代に発展した装置だった。この二十一世紀の茶室でも、ミサイルの下で市民が犠牲となるニュースに接しながら、私たちは、海老塚のエイジェントから一椀のもてなしを受けることになるだろう。(美術評論家/小泉晋弥 展覧会カタログ「水・やわらぎの家」より抜粋)
会場風景(画像をクリックすると拡大します)
01. 「水・やわらぎの家」2022 204.0×344.5×189.0cm 木、鉄、ガラス 3.500.000円(税別)
01. 「水・やわらぎの家」2022
02. 「風の天秤2022」 232.5×21.5×466.5cm 木、鉄 1.500.000円(税別)
01. 「水・やわらぎの家」(部分)
07. 「水、形が落ちるE」 2022 90.7×41.3×26.8cm 木、鉄 210.000円(税別)
04. 「水、形が落ちるB」 2022 96.2×41.3×26.8cm 木、鉄 210.000円(税別)
03. 「水、形が落ちるA」 2022 101.2×41.3×26.8cm 木、鉄 210.000円(税別)
06. 「水、形が落ちるD」 2022 97.3×30.0×30.0cm 木、鉄 210.000円(税別)
05. 「水、形が落ちるC」 2022 101.5×30.0×30.0cm 木、鉄 210.000円(税別)
14. 「水の書220823」2022 9.0×17.0×4.5cm アゾべ 80.000円(税別)
09. 「水の書220805」2022 9.0×24.3×4.5cm アゾべ 90.000円(税別)
12. 「水の書220815」2022 9.0×22.5×4.5cm アゾべ 85.000円(税別)
10. 「水の書220807」2022 9.0×24.2×4.5cm アゾべ 90.000円(税別)
08. 「水の書220801」2022 22.2×9.0×4.5cm アゾべ 85.000円(税別)
11. 「水の書220811」2022 9.0×19.3×4.5cm アゾべ 85.000円(税別)
15. 「水の書220829」2022 19.0×9.0×4.5cm アゾべ 80.000円(税別)
13. 「水の書220821」2022 19.8×9.0×4.5cm アゾべ 85.000円(税別)
16. 「水の書220908」2022 9.0×23.6×4.5cm アゾべ 80.000円(税別)